株式会社やまやま 猪原有紀子

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BLOGくつろぎたいのも山々。

新規就農者が増えない本当の理由。

株式会社やまやまの猪原です。 和歌山県かつらぎ町で、無農薬ブルーベリーと原木椎茸を栽培しています。2019年に認定新規就農者になり、2021年に日本一お子様づれを歓迎する観光農園「くつろぎたいのも山々」をOPEN。2022年8月に法人化しました。今日は私が2019年に新規就農してみてわかった、新規就農者が増えない本当の理由についてお伝えしたいと思います。

青年等就農計画の審査員に問題あり

例えばお父さんが農家でその子どもが新規就農者になる場合と、私のように農業経験未経験の人が新規就農者になる場合の2つのパターンがあるとします。農業経験がない人や会社員だったけれど農業をするために地方移住するような人は、認定新規就農者制度という農林水産省の制度を活用することが多いです。私も、1人も知り合いのいない町に移住をして農業を始めたので、認定新規就農者制度を活用しました。今回の記事ではこの後者の人のことを「新規就農者」と呼ぶことにします。

ここでぶつかる大きな壁は、志高い新規就農者であったとしても、先進的な農業をしようとするものなら、農業委員会と公務員がその芽を潰してしまう事例があとを絶たないということです。

どうやって潰すのか?

それは、青年等就農計画の認定を却下することで潰します。

青年等就農計画とは?

新しく農業を開始しよう!とする時にはお金がたくさんいるんです。土地、苗、ハウスなどの設備、とにかく個人で新規就農しようと思うと自己資金が何百万単位で必要です。それだけではとてもじゃ足りないので、認定新規就農者になって日本政策金融公庫から無利子の融資を借ります。また、栽培するのが果物であれば苗植えをしてから収穫までに何年もかかります。私の場合は、ブルーベリーの養液栽培でしたが収穫まで2年半かかりました。その間の生活費として補助金が交付されます。

この「認定新規就農者」というゴールドバッチをもらうには、青年等就農計画の認定をしてもらわなくてはいけません。誰にか?それは、地域のベテラン農家さんや、農業委員会の方、役場職員で構成された審査委員会の人たちにです。この審査員の人達は、どういう人かというと。今までずっと農業に携わってきた方達です。

農業の衰退を改善するためには、今までとは明らかに違う農業をする必要があります。しかし、実際に今まで審査員の方がやってきた農業とは違う農業。審査員の人が知らないことを新規就農者が言い出すと、その計画は却下されます。例えば、作物を作って農協に出荷して終わり。農協が買い取ってくれない作物は近くの産直売り場に持って行って売る。これが今までの農業です。これからは、自分でSNS発信をし、自分で値付けをし、直接食べてに届けていくことが必要だということは、もう先進的でもなんでもなく当たり前のことなんです。しかし、地域の現場はそうなっていません。

例えば。ソーラーシェアリングで太陽光のパネルの下で農業をすることで、太陽の恵みで農業ができる(井戸から水を汲み上げたり農業って電気を使います)かつ、売電収入も入ってくるため安定的な農業ができるメリットがあります。ソーラーシェアリングで新規就農するという提案に対しては下記のようなことを言われる事例が全国で多発しています。

「ソーラーシェアリング?農業初心者なのに投資が大きすぎて心配だから却下。」

→農林水産省がより安定した農業をするために、ソーラーシェアリングの普及を推進しています。明らかに勉強不足です。「今までの申請者達のハウス建設と比べて投資額が大きい。」というのは却下理由になりません。

私の時は、「農業初心者なのに、投資額も大きいしインターネット集客をちゃんとやるとか、子ども向けのサービスとかでこんな田舎に人が来るとは思えないから却下。」

と言われました。

結果的に再審査をして頂き、2時間近く説明をして無事審査が通りましたが本当に驚きました。

→水や肥料を機械化し、空いた時間をマーケティングに費やすという、今までとは違う先進的な農業をしている。投資額が大きのは当たり前。また、すでに地域でインターネット集客に力を入れている農家がいるけれど実際にできていないならまだしも、そんな農家は今までいないのにも関わらずインターネットで集客できないというのはおかしいと感じました。

軽率な一般化がまかり通ってしまう実態。

自分が見たり聞いたりしたごく一部の事象から結論を出し、みんなもそうだ!と一般化することを【軽率な一般化】といいます。この軽率な一般化が、先進的な農業を行おうとする新規就農者の芽を積んでいる実態があります。WEBが何かも分からない。SNSが何かも分からない審査会の方達は、入場料が高いと人が来ない!

(。。と自分は思うから他の人もそうであるはずだ!)

都会の子育てファミリーの気持ちが想像もできない審査会の方達は、授乳室やおむつ替えスペースがある設備にしたとしても訴求にならない!

(。。と自分は思うから他の人もそうであるはずだ!)

という感じで【軽率な一般化】の元、会社を退職し、自己資金で農業をすでに始めていたとしても、新規就農者の未来の芽を摘み取ります。

結果、今までの農業をする新規就農者だけが残り、今までとは違う先進的な農業にトライする新規就農者がいなくなります。

そこで、どうしたらいいのか?ということを考えました。私の場合は、役場の産業観光課の担当の方に2時間「再審査してください」と交渉しました。農林水産省に電話をしてこんな理由で落とされましたが要件に合致していますか?と確認をしたところ、要件とは違う部分で落とされていることがわかったからです。本来は、農林水産省の定める要件にどんな理由で合致していないか?ということを書類で役場は提出しなければいけない決まりになっています。ところが、私の場合はそんな書類もなく電話で「今回は残念ですが」と落とされました。なぜ正式な書類が出せなかったのか?ということですが、感情で審査をしてしまっていたからなんですね。。。人生をかけたチャレンジをこんなに適当に審査されるの?ととても驚きました。そのこともお伝えすると、さすがに正式な書類はこの審査だと出せないと思っていただいたようで、通常は書類審査のところを実際に再審査していただき、直接審査員の皆さんにプレゼンさせて頂く機会をいただけたので、審査がひっくりかえり「そこまでいうなら頑張りなさい」と合格をいただけたのですが、三男もまだ0歳でしたし、とても疲弊しました。

子連れでも疲れない観光農園をこの町に作ることで、全国から子育てファミリーがやってくる未来をつくりたいという想いで、10年勤めた会社も辞めて、自己資金で農業も始めているのに、こんな仕打ちをうけなければならないんだろう?とはてなマークが正直、止まりませんでした。リスクを負うのは私ですし、借金を返済するのも私です。なのに「こんな田舎に人は来ない」とか「入場料が高いから人は来ない」とかそんな理由で、審査を落とされてしまっては八方塞がりです。私は農業をしたいと思ったわけではなく、子連れでも疲れない観光農園を作るために農家になったので、農協に卸して収入を得ても意味がありませんでした。

結果的に、審査が通り無利子で3,700万円の借入をし農園をオープンすることができました。インターネットでの集客が功を奏し、コロナ渦のオープンにも関わらず1年で全国から3,000人の子育てファミリーがかつらぎ町に訪れ、グーグルの口コミは130件オール5つ星。20代のボランティアを200回以上受け入れる中で20代の移住者が3人も誕生するまでになりました。

これが結果です。あの時、私が泣き寝入りしていたら、役場の方が再審査をして下さらなかったら、また、最後の最後に「そこまでいうなら頑張りなさい」と審査員のみなさんが応援してくださらなかったら、この結果はありませんでした。

今も全国で志高い新規就農者が撃沈していると思うと胸が痛みます。そこで私が提案したいのは、現在ベテラン農家と農業委員会と公務員で構成されている審査会のメンバーを変えるということです。半分は今までの人たちでいいです。ただ半分はビジネス感覚のある人にすべきです。

この審査員のメンバーを替えるだけで、先進的な農業を実行する新規就農者が増えるだけでなく、今までとは違う新しい取り組みが生まれるので、地域に活気が生まれます。農業にイノベーションが起きるようになります。

これは農業の話だけではなくて、例えば地域の起業補助金制度なども同じで、審査員に起業家はいません。権限を委託されている地方自治体の審査員の適正化は今後、地方創生を語る上では絶対に避けて通れない、避けてはいけないことだと思います。

私は、この認定新規就農者制度において志ある新規就農者のみなさんの芽が潰されないように応援したいですし、地域の子ども達が「あ、この町では新しい挑戦はできないな」って思ってしまうことだけは避けたいです。私自身も3年前はそんな状態でしたが、今では「猪原さんよく頑張ってる」と当時審査員だったベテラン農家さんが太鼓判を押してたよと産業観光課の担当の方に言ってもらえるようになりました。

コツコツ、歩みを進めていれば必ず道は開けます!全国の新規就農者の皆さん!一緒に頑張りましょう〜!

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新規就農者が増えない本当の理由。」への1件のフィードバック

  • まずは市町村農業委員会の上位組織である『〇〇県農業会議所』に相談してみるのが良いと思います。
    農業会議所とは言わば製造業を管轄とする商工会のようなものです。
    ここに相談して事前認定を得ることで後の市町村農業委員会の認定が容易になってきます。
    ただひとつ助言ですが、国の農業イノベーションの取組みと採択組織の方向性は一致しないのが現実です。矛盾するのですが、新規就農の認定は現実的な(例え自分達の計画に沿うものではなくても)計画を強いられますので、そこは計画の妥協をしてください。
    逆に言うと、そこを妥協的な計画で通せれば、後の実段階で自分達の本当の計画を使えば良いんです。
    ただそこでも言えることですが、融資部門の方々も負けず劣らず石頭揃いです。
    ご検討ください。

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